サンデーモーニング、2019年6月16日分の検証報告(前編)です。
今回の報告では、
① 「風を読む」にて老後2000万円問題について報道された部分
② 安倍首相のイラン訪問について報道された部分
③ イージスアショア配備について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
前編で検証するのは、
① 「風を読む」にて老後2000万円問題について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
【VTR要約】
金融庁が老後資金として、夫婦のみの無職世帯の場合、30年で約2000万円が必要などと指摘した問題について、麻生金融相が報告書の受け取りを拒否する異例の事態となり、波紋が広がっていると伝えられる。今回の騒動の背景には、日本の年金制度が置かれている深刻な状況があるとナレーション。そもそも日本の年金制度は、戦前は軍人・公務員を対象とする恩給制度のみで、戦後に国民すべてを対象とする年金制度の検討が始まったものであると伝えられる。明治大・飯田泰之准教授のインタビュー映像に切り替わる。「制度導入時は、戦争によって財産・経済力を失った高齢者を助けるという共有目標があった」と話す映像が流される。高度経済成長とともに、政府は集まった膨大な年金資金約3700億円を使い、各地に大型リゾート施設グリーンピアを建設したが、バブル崩壊後、次々と閉鎖しずさんな運用が明らかになったと伝えられる。当時の小泉内閣は、いわゆる「年金100年安心プラン」を掲げたが、その後5000万件もの年金記録が杜撰な管理によって失われる「消えた年金問題」が発覚したとナレーション。
「年金100年プラン」についての簡単な説明の後、再び飯田氏のインタビュー映像に切り替わる。「徐々に高齢者だから貧困、若者だから裕福という前提が成り立たなくなり、世代間の助け合いという前提自体が根拠の薄いものになった」と話す映像が流される。実際、2000万人を超える非正規雇用者数は今も増え続け、実質的な納付率は約4割にまで落ち込み、若い世代が高齢者を支える制度自体に無理が生じていると伝えられる。
麻生金融相が「30年で2000万円の赤字であるかのように表現した点について、国民に不安・誤解を与える不適切な表現だった」と発言する映像が流され、VTRは終了した。
【コメンテーターの発言】
姜尚中氏(全文):相互扶助っていう意味は、社会を支えて支えられるという、日本社会の根幹にかかわることなわけですよね。だから、これは単なるレトリックとか誤解の問題ではなくて、さっき池田さんの方からもあったように、やっぱり非正規雇用にどう対応するのか。それから国民年金5万円前後で生きざるを得ない人にどうしたらいいのか。ただ、長いスパンからみれば、僕は実質賃金が伸びるようにしていくしかないと。分子が多くて分母が少なくなる。少なくなっても、一人当たりの実質賃金が上がっていけばですね、それを支えられるわけで、日本はおそらく平成の間、ほとんど一人当たりのGDPは4万ドルを超えなかったんですね。だから、G7の中でも非常にやっぱ生産性が低い。それは、これだけの良いものを作りながら賃金があまりにも低すぎるというか。だから、そういうことを考えて、大変なのは、年金だけをどうするかじゃなくて、日本の社会がある程度成長しながら実質賃金が増えて、そして少子高齢化に対応できるような。そういうものを作っていかないと、今のアベノミクスでは、第三の矢がほとんど見えてこないわけですよね。そこは一番大切なことじゃないでしょうかね。
大宅映子氏(要約):1947年の平均寿命は、男性は50歳で、今は81歳。当時の年金受け取りは55歳だった。今でいえば、85歳から年金をもらえるということ。当時(高度経済成長期)は働き世代も多いしじゃばじゃばお金があった。当時から少子も高齢者の数も予想できるが、長生きは読めなかった。与党も野党も一緒に根本から変える方法を考え出さなければいけない。
岡本行夫氏(要約):年金問題の基本的な原因は長生き。年金の制度設計が行われたときは、65歳ぐらいの人は約500万人だったのが、いまは3300万人。支える若い人は、当時は9人で1人だったのは、今は2人で支えなければいけない。これでは上手くいくわけない。報告書を受け取る受け取らないの問題ではなく、与野党が一緒に制度を変えていかないと破綻は不可避。
池田健三郎氏(要約)今回のレポートは厚労省からではなく、金融庁から出たのがポイント。今までのようにコツコツお金を貯めるだけではなくて、もっと攻めてお金のやり繰りを考えていかなければいけないというのが、今回のレポートの言いたいことだと思う。
松原耕二氏(要約):若者たちはもう貰えるとは思ってない。政治だって年金がどうなるかというのは分かっていた。今回の問題は、政治が見て見ぬふりをしてきたものへのアラームだと思う。与野党一緒に議論してほしい。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の3点です。
1、姜尚中氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
それぞれ順を追って解説します。
1、姜尚中氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
姜尚中氏は今回の報道で、以下のように述べています。
姜尚中氏(抜粋):ただ、長いスパンからみれば、僕は実質賃金が伸びるようにしていくしかないと。分子が多くて分母が少なくなる。少なくなっても、一人当たりの実質賃金が上がっていけばですね、それを支えられるわけで、日本はおそらく平成の間、ほとんど一人当たりのGDPは4万ドルを超えなかったんですね。だから、G7の中でも非常にやっぱ生産性が低い。それは、これだけの良いものを作りながら賃金があまりにも低すぎるというか。だから、そういうことを考えて、大変なのは、年金だけをどうするかじゃなくて、日本の社会がある程度成長しながら実質賃金が増えて、そして少子高齢化に対応できるような。そういうものを作っていかないと、今のアベノミクスでは、第三の矢がほとんど見えてこないわけですよね。そこは一番大切なことじゃないでしょうかね。
要旨をまとめると、
・分母が少なくて分子が多い現在の年金制度を維持するためには、実質賃金を伸ばしていかないといけない。一人当たりの実質賃金を上げることで分母を増やせばこれを支えられる。
・一人当たりのGDPが4万ドルを超えない日本は、G7のなかでも生産性が低い。一人当たりの実質賃金を増やさないとアベノミクスの効果があるとは言えない。
というものです。
しかしながら、
・実質賃金は労働者の賃金を消費者物価指数で除した統計上の数値であり、また実質賃金は平均値なので新規雇用された人が存在する分低く数値が出る。
・一人当たりGDPの問題と実質賃金は全く関係ない。
など、発言内容とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での姜尚中氏の発言は事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「日本の年金制度が危機に陥っている」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「今回の報告書は年金制度の崩壊を明示したものではない」「マスメディアによるミスリードだ」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第4号「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の前編となります。前編では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
この続きの
② 安倍首相のイラン訪問について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
③ イージスアショア配備について報道された部分
については後編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。