2019年7月11日 報道ステーション

2019年7月11日 報道ステーション

7月11日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・後藤氏による日本外交に関する解説

まずは放送内容を確認していきます。
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【スタジオ】  
徳永有美アナ:イランの精鋭部隊、革命防衛隊がイギリスの石油タンカーを拿捕しようとしたと、アメリカメディアなどが伝えました。現場は先月、日本のタンカーなどが攻撃を受けたホルムズ海峡付近です。イギリス政府によりますと、イランの船舶がイギリスのタンカーに対して停止するよう命じたということです。しかし護衛していたイギリス海軍のフリゲート艦が離れるよう警告したところ、船舶は引き下がったということです。アメリカメディアは「船舶はイラン革命防衛隊の船で、タンカーを拿捕しようとしていた」と伝えています。イギリスは先週、ジブラルタル海峡でシリアに原油を輸送しようとしたとして、イランのタンカーを拿捕していて、イラン側が報復に出た可能性がありますが、イラン側は「いかなる外国船との接触もなかった」としています。イランを巡り緊張が高まる中、アメリカ軍はホルムズ海峡の航行の自由を確保するため、同盟国などと「有志連合」の結成を目罪していますが、日本政府はアメリカから参加への打診を受けたか、明言を避けています。

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【VTR】
野上浩太郎官房副長官:イラン情勢を巡りまして日米間で緊密にやりとりをしているところですが、外交上のやりとりについて詳細は控えたいと思います。

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【スタジオ】
富川悠太アナ:アメリカが結成を目指している「有志連合」というのは、基本的な考え方としましては「石油の生産国や購入国などがホルムズ海峡の安全を守るために、軍事や財政面で相応の負担をする」ことによってホルムズ海峡の安全を守っていこうというものなんですね。ここからは政治部デスクの山本志門さんに解説していただきます。よろしくお願いします。

山本志門氏:よろしくお願いします。

富川悠太アナ:アメリカから日本が対応を迫られたかどうかは分からないんですけれども、軍事面の負担ということは自衛隊の派遣を求められる可能性があるということでしょうか。

山本志門氏:そうですね。そもそも大前提として、安倍総理が今年6月にイランを訪問した際に、中東の緊張緩和に努力すると言ってたんですね。ですから何もしないわけにはいかない。ただ実際に自衛隊を派遣するにあたっては法律の大きな制約があるんです。想定されるのはこの四つの法律なんですけど、まず一つ目、これは安保法制ですね。これに基づけば限定的に集団的自衛権の行使が可能になるんですけども、ただこれには「存立危機事態」という要件がありまして、これは「わが国の存立が脅かされ、国民の生命などに明白な危険があること」これが要件となっているんです。

富川悠太アナ:ただいまホルムズ海峡が存立危機の状態にはないですよね。

山本志門氏:そうですね。いろいろと取材してみますと、政府内には、この存立危機事態には至っていないだろうというのが共通認識になっているんですね。

富川悠太アナ:自衛隊法に基づく海上警備行動っていうのは、海上保安庁では手に負えないものを自衛隊が警備するというものなんですけども、こちらはどうですか。

山本志門氏:そうですね。これは過去、北朝鮮の工作船や中国の潜水艦が領海侵入したときに発令された経緯があるんですけども、これは「自国の船舶・船員のみ守る」ことができるんです。他国の船舶・船員は守れないんです。これでいいじゃないかという考え方ももちろんあると思うんですが、仮に海上自衛隊が警備している最中、目の前で第三国が攻撃された場合、海自は何もできない。そうした場合に国際社会から批判されるリスクもあってですね、政府はそのリスクも慎重に考えているんです。

富川悠太アナ:何かあったときに、有志連合の一員なのになんで何もしないんだっていうことになりかねない、ということですね。そして海賊対処法に基づいて、とはいっても、海賊ではないですもんね。

山本志門氏:そうですね。この法律に基づけば他国の船舶も守ることができるんですけども、これはあくまで対象が海賊なんですね。ホルムズ海峡はイランの革命防衛隊が行っているとみられていますので、この状態で自衛隊を派遣するというのはそうとう無理があると思います。

富川悠太アナ:こう見ると現行法では対応が厳しい。となると特別措置法を新たに制定するということは考えられるんでしょうか。

山本志門氏:そうですね。これで対応できない場合は新しい法律を作るしかないんですけども、作るとしたら臨時国会を参院選後に開いて法律を通すというような作業になってくるんですが、これ実は与党内からもそうとう疑問の声が上がっているんですね。こちらですね、「安保法制があるのに…」と書かれてますけども、つまり安保法制というのはそうとうな時間・労力をかけて政府が法案を通したわけですね。ここでできないのに新しい法案を作ってできるようにするっていうのは、果たして国民の理解を得られるのかどうか。ここに疑問の声が上がっているんです。

徳永有美アナ:後藤さん、そんななか、アメリカから日本に対して、具体的な要求っていうのは来てるんでしょうか。

後藤謙次氏:それについてはですね。政府はそれにいっさい触れないということになっているようなんですが、今日取材した政権幹部によると、少なくともトランプ大統領と安倍総理の間で直接この問題をつうじて協議したことはないと。ただ事務当局間ではそれなりのやりとりをやってると。ただしこれについても、いつまでにこれをやってもらいたいというような切迫した要求があるわけではない。ただ非常に緊張しているのは、今回くるくる発言が変わるトランプ大統領じゃなくて、軍のトップが発言した。これについては、かなり真面目に深刻に受け止めているというのが今の日本政府の対応だと思いますね。

徳永有美アナ:となると日本はこれからどのように対処していくべきなんでしょうか。

後藤謙次氏:はい。先ほど山本さんもおっしゃっていたように、この問題はそもそもトランプ大統領のイランの核合意の離脱から始まってるわけですね。そもそも緊張状態を造り出した国に、果たして日本が行動を共にするのかというところを、自分自身に問いかけなければいけないと思うんです。国際社会が期待しているのは、安倍総理が先月テヘランに行って、ハメネイ師とかロウハニ大統領と会談をしていると。

徳永有美アナ:仲介役ということですね。

後藤謙次氏:しかもそこで対話を促してる。一度はこれは頓挫してますけど、改めてこの努力を続けるというのが国際社会が日本に求めているものだと思うんです。先走って有志連合とかいうんじゃなくて、憲法9条をもつ日本はどういう振る舞いをするべきかということを、世界に発信するということがいま日本政府に求められている最大の責務じゃないかと思いますね。

富川悠太アナ:これは対応を迫られたらそうとう難しい対応となりそうですね、日本は。

山本志門氏:そうですね。いま政府はそうとう頭を悩ませていますね。

富川悠太アナ:山本志門さんでした。ありがとうございました。

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【検証部分】
今回検証する発言は以下の部分です。

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後藤謙次氏:はい。先ほど山本さんもおっしゃっていたように、この問題はそもそもトランプ大統領のイランの核合意の離脱から始まってるわけですね。そもそも緊張状態を造り出した国に、果たして日本が行動を共にするのかというところを、自分自身に問いかけなければいけないと思うんです。国際社会が期待しているのは、安倍総理が先月テヘランに行って、ハメネイ師とかロウハニ大統領と会談をしていると。

徳永有美アナ:仲介役ということですね。

後藤謙次氏:しかもそこで対話を促してる。一度はこれは頓挫してますけど、改めてこの努力を続けるというのが国際社会が日本に求めているものだと思うんです。先走って有志連合とかいうんじゃなくて、憲法9条をもつ日本はどういう振る舞いをするべきかということを、世界に発信するということがいま日本政府に求められている最大の責務じゃないかと思いますね。
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この発言の問題点は以下の2点です。

・印象操作と思われる発言があった可能性がある
・日本外交を論じるにあたり、多くの論点を提示した解説であったか

1点目の問題点から見ていきます。
後藤氏は中東情勢の緊張はアメリカが核合意離脱によって作られたものであるため、日本はアメリカとの付き合いを考えなければならない、といった趣旨の解説をしています。

しかし、今回の問題の発端となったホルムズ海峡のタンカー攻撃は誰が行ったのか判明していません。
テロ攻撃なのか、武力行使なのか、はっきりしないのです。
5月のアメリカが決定した核合意からの離脱が原因だと、後藤氏が解説していますが、確証はありません。

核合意は今年の5月にアメリカが離脱を発表しましたが、その狙いについてアメリカとしては北朝鮮への本気度を示すメッセージのため、サウジアラビアへの接近のため、トランプ政権の中東情勢における方針の転換のためなど様々な見方があります。

中東情勢が緊迫していることに間違いはありませんが、その責任をアメリカに一方的に押し付けるのは視聴者に誤った印象を与えかねません。
我々はこのような印象操作と思われるようなテレビ放送を問題ととらえます。

次の2点目の問題点について見ていきます。

後藤氏は日本が国際社会に求められていることは対話を促すことであり、憲法9条を持つ国として振る舞うことで、世界へ発信していくべきだ、と解説しています。
何を世界へ発信するのか、明言していませんが、平和的に解決することが重要だと述べているようです。

この発言は後藤氏の主観やイデオロギーに基づくもので、解説として不適切であると考えられます。
国際社会が日本に求められていることについても根拠や具体的な国名や要求していることも明示していません。

対話による解決がベストであるということは間違いありませんが、中東情勢の緊迫が解決されずに6月にホルムズ海峡で起こったような事件を相次いでしまえば、石油などのエネルギーの輸送に大きな影響が出てしまいます。

中東情勢はエネルギーの問題に直結し、エネルギーに問題が起きれば、全世界が不安定化してしまうこともあります。

このように中道情勢は様々な視点で、語ることが必要であるにも関わらず、論点を欠いた解説は以下の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は今後も公正なテレビ放送を目指して監視を続けて参ります。

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