9月26日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。
・日米貿易交渉について十分な論点を提示した放送がなされていたか
放送内容を確認していきます。
VTRとパネル解説については一部要約しながら見ていきます。
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【スタジオ】
富川悠太アナウンサー(以下富川アナ):次です。安倍総理とトランプ大統領が日米貿易協定の共同声明に署名しました。安倍総理は、日米双方にとってウィンウィンの結論を得られたと強調していますが、本当にそうなんでしょうか。
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【VTR】(要約)
今回の日米貿易協定によって、アメリカ産の牛肉や豚肉小麦など一部の農畜産物の関税はTPPと同水準まで引き下げられることになりました。アメリカが農産品の関税にこだわったのは、テキサス州など畜産農家が多い地域はトランプ大統領の重要な選挙基盤であるからだと思われます。一方、日本は楽器、眼鏡、自転車などの関税が順次撤廃されることになりました。また、アメリカはコメの無関税枠を求めていましたが、見送られました。そして交渉が難航していた日本車については、現状維持となりました。
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【パネル解説】(要約)
富川悠太アナ:日米それぞれの戦果を確認していきます。
まずアメリカについて。アメリカ産牛肉を日本に輸出する際に、現在38.5%の関税がかけられていますが、段階的に引き下げまして2033年の4月には9%になります。
更にワインは2025年4月に撤廃されます。
次に日本について。アメリカ産のコメを輸入する際にアメリカは、年間7万トンの無関税枠を求めたんですけれども、見送りという形で合意することができました。これはTPPのときに設定されたものですから、見送りとなったのは日本にとっては農家を守るという意味でも非常に大きかったということがいえると思います。そして輸出に関しまして。ピアノやエレキギターといった楽器は関税撤廃。眼鏡、サングラスの輸出の関税も即時撤廃ということで安倍総理の満面の笑みにつながったわけです。ただ、こう合意内容を比べてみますとこと農業分野に関しましてはアメリカのほうが勝ちが大きいような気がしなくもないんですがどうなんでしょうか。布施さん、アメリカは今回の合意内容に関してどう捉えているんですか?
布施哲ワシントン支局長(以下布施支局長):アメリカにとっての最大の成果は来年の大統領選挙に向けて農家へのアピール材料を得たということに尽きると思いますね。もう1つ影響したのは米中との貿易交渉があると思います。これも選挙に関わってきます。トランプ大統領は来年の大統領選挙の成果の目玉の1つとして中国の貿易交渉をまとめたいと思っていますが、交渉が難航していてうまくいっていません。そして、中国が発動した報復関税のダメージをアメリカの農家も受けています。これも手当てをしたい。こういう中国との交渉を本格化してまとめたい中で、まずは日本との交渉を優先してまとめて次に移りたいという事情も今回の合意を動かしているというふうに言えると思います。
富川アナ:ただ、日本にとってはやはり気になるのは車に関してですよね。日本車の輸出にかけられる関税の撤廃は先送りになり、追加関税も回避ということになりました。つまりは2.5%のまま現状維持です。ただ、追加関税はあくまでも回避ですからいつカードをちらつかせられるかといった意味では布施さん、不安は尽きないんですけれどもどうなんでしょう。
布施支局長:この点はあまり心配しなくていいのかなとみています。先ほど申し上げましたようにアメリカの関心は今回、自動車ではなく農業でしたし次の関心は中国に移っています。ライトハイザーさんは確かに自動車分野で日本と再交渉するとは言ってるんですけど、できればというニュアンスですし今は再開の時期めども全く立っていません。このまま再交渉が行われないままフェードアウトしていく可能性もあると思います。
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【スタジオ解説】
富川アナ:ただ、やっぱりこの言葉が気になっちゃうんです。ライトハイザー通商代表こんなことを言っています。『現時点ではトランプ大統領は追加関税を考えていない』現時点ではというのは徳永さん、気になりますよね。
徳永有美アナウンサー:日本にとっては自動車非常に重要ですから、後藤さん現時点ではという言葉はやっぱり日本にとっては不安が残ると。
後藤謙次氏:不安ですね。とりわけ今回最大のポイントはこれで終わりじゃないということなんですね。交渉の土俵が残ってしまった。今日トランプ大統領首脳会談の中で今日の協定合意は重要な一歩なんだと。これから我々のチームはまだ交渉を続けるということになりますと新たな要求を残った土俵の中でトランプ大統領がいきなり出してくる。とりわけ大統領選挙が佳境になったときにいつでもそのカードを出してくるという可能性があるんですね。今回、見えない、ある面で日本の譲歩というのはこの関税の引き下げの日付ですね。2033年4月。この関税を引き下げのスピードですよね。これ、TPPにトランプ大統領アメリカは加わっていないんですが他の11か国と同じスピードにするということなんです。これが隠れたアメリカに対する譲歩なんですね。つまり、列に並んでいなかったアメリカがいきなり最優先順位で入場できますよということ。しかも、その土俵が残っているのでトランプ大統領は最終的に2国間でもっと広いFTA・自由貿易協定を結ぼうと、為替にも入ってくるかも分からない。あるいはサービスの分野にも入ってくるかも分からない。更にフィールドを拡大してくる可能性もあるのでやはりウィンウィンというのはやや程遠いと。ウィンウィンというのはやっぱり農業対車。これがイーブンになって初めてウィンウィンなんですけれども今回、そこまでいかなかった。その背景には日米同盟という安全保障をアメリカに委ねてると根本的な背景があるので最初から勝ち目がなかった交渉だったことも間違いないかも分かりませんね。
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【検証部分】
まずは簡単に今回の貿易交渉の結果を見ていきます。
〇アメリカ
日本へのアメリカ産牛肉輸出にかかる関税を現在の38.5%から2033年4月に9%へ。
ワインについては2025年4月までに関税撤廃。
〇日本
アメリカが求めたアメリカ産米7万トン輸出の関税撤廃については見送り。
アメリカへの日本の楽器輸出の関税撤廃。
眼鏡、サングラスの関税撤廃。
自動車については現状維持。
以上の交渉結果について政府は両国にとってウィンウィンの結果である主張している一方、後藤氏は以下のように解説をしています。
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後藤謙次氏:不安ですね。とりわけ今回最大のポイントはこれで終わりじゃないということなんですね。交渉の土俵が残ってしまった。今日トランプ大統領首脳会談の中で今日の協定合意は重要な一歩なんだと。これから我々のチームはまだ交渉を続けるということになりますと新たな要求を残った土俵の中でトランプ大統領がいきなり出してくる。とりわけ大統領選挙が佳境になったときにいつでもそのカードを出してくるという可能性があるんですね。今回、見えない、ある面で日本の譲歩というのはこの関税の引き下げの日付ですね。2033年4月。この関税を引き下げのスピードですよね。これ、TPPにトランプ大統領アメリカは加わっていないんですが他の11か国と同じスピードにするということなんです。これが隠れたアメリカに対する譲歩なんですね。つまり、列に並んでいなかったアメリカがいきなり最優先順位で入場できますよということ。しかも、その土俵が残っているのでトランプ大統領は最終的に2国間でもっと広いFTA・自由貿易協定を結ぼうと、為替にも入ってくるかも分からない。あるいはサービスの分野にも入ってくるかも分からない。更にフィールドを拡大してくる可能性もあるのでやはりウィンウィンというのはやや程遠いと。ウィンウィンというのはやっぱり農業対車。これがイーブンになって初めてウィンウィンなんですけれども今回、そこまでいかなかった。その背景には日米同盟という安全保障をアメリカに委ねてると根本的な背景があるので最初から勝ち目がなかった交渉だったことも間違いないかも分かりませんね。
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この解説の問題点は以下の2点です。
・様々な論点を取り上げた解説ではない可能性がある
・視聴者に誤った印象を与えかねない発言があった可能性がある
この2点について見ていきます。
後藤氏は今回の交渉がウィンウィンの結果ではない根拠として次の3点を挙げています。
1. 大統領選挙の際、交渉が再開される可能性があること
2. アメリカが参加していないTPPと同様の結果であること
3.今回の交渉外の分野にも交渉が及ぶ可能性があること
1についてですが、国内の情勢に合わせて外交上の話し合いが再開、転換することは当然のことであります。
日本でも民主党政権となり、それまで合意していた辺野古基地移設の話が一度振り出しに戻ったということもあります。
またアメリカ大統領選の際に、交渉が再開されたとして日本にとって不利な交渉になるとは分からないため、これをもって日本が譲歩したとは言えないでしょう。
次に2についてですが、これはトランプ大統領が大統領選挙の公約として、TPP脱退を挙げていたことを考慮する必要があります。
前オバマ政権との違いを鮮明にするためにTPP脱退を公約として挙げたという面もあるため、TPPに参加していないということと、今回の交渉を同列に語るというのは適切であるとは言えないでしょう。
最後に3についてです。
後藤氏は様々な分野への交渉が及ぶ可能性があり、為替にも介入してくる可能性もあるため不安が残る、といったような解説をしていますが、この部分について客観的な根拠や論拠は明示されておらず、後藤氏の主観に基づく解説であります。
仮に様々な分野への交渉が及んだとしても日本にとって不利な交渉になるかはやはり分かりません。
このように様々な切り口から今回の交渉について、「不安が残る」「ウィンウィンとは程遠い」といったような解説は視聴者に誤った印象を与えかねないばかりか以下の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して今後も監視を続けて参ります。