サンデーモーニング、2019年11月3日分の検証報告(前編)です。
今回の報告では、
① 「風を読む」にて緒方貞子氏の逝去について報道された部分
② イスラム国指導者の死亡について報道された部分
③ 徴用工判決の影響について報道された部分
以上3点について検証し、その問題点を探りたいと思います。
検証の手順としては、まず放送内容を書き起こし、その内容にどのような問題があるのか、公正な放送の基準である放送法第二章第四条と照らし合わせて検証します。
今回はレポートを3つに分け、前中後編でお送りいたします。
前編で検証するのは、
① 「風を読む」にて緒方貞子氏の逝去について報道された部分
となります。
では、さっそく放送内容をみてみましょう。
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【VTR要約】
日本人初の国連難民高等弁務官として難民支援に奔走し、国際協力機構(JICA)の理事長も務めた緒方貞子さんが10月22日に92歳で亡くなった。
日本が軍国主義に向かう1927年、緒方氏は祖父は元外相・父は外交官という家庭で生まれ育った。4歳のとき曽祖父である犬養毅元首相が暗殺された生い立ちから「日本はなぜ戦争を始めたのか」を探りたいと研究者の道を志し、アメリカに留学して国際政治を専攻。国連公使、大学教授を経て国連難民高等弁務官事務所(UNHICR)のトップに就いた。就任間もない1991年、湾岸戦争で混乱するクルド人が隣国のイラン・トルコの国境に殺到していたが、このとき国連が保護対象としたのは国外に逃れた難民のみで、イラク国内に避難するクルド人は支援対象となっていなかった。しかし現地のキャンプを訪れた緒方さんは彼らへ支援することを決断した。
緒方さんは従来からの国家主体の軍事力による安全保障でなく、紛争や貧困などあらゆる脅威から人々の尊厳を守る「人間の安全保障」という理念を掲げ世界に訴えた。その結果、2012年の国連総会で人間の安全保障を重視する決議が全会一致で採択された。緒方さんは生前、「人びとというものを中心に据えて安全においても繁栄においても考えていかなきゃいけない。人びとというものを頭に置かない、威張って国を運営できる時代ではないのです」と語っていた。
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【コメンテーターの発言】
関口宏氏(全文):おっしゃってることはずっと、「当然だよな」って思うけど、それができない世界だよね。僕、ある方にね、緒方さんに会ったって人に聞いたんだけど、「アメリカについてどう言ってんですか?」って言ったら、「戦争ばっかりしてて」って。こう言ったっていうのを聞いてね、うわあ素晴らしい人だなと思いましたが。さあ皆さんに聞きましょう。
藪中三十二氏(要約):本当に小さな巨人、スーパーレディ。イラク国内のクルド人難民は保護対象外だった。本当に悲しい人、苦しんでいる人を助けなきゃいけないという思いがものすごく強い方だった。日本に対しても、「杓子定規に難民のことを考えてなかなか(難民を)受け入れようとしない」と非常に厳しい言葉を言っておられた。本当に素晴らしい方だと思う。
関口宏氏(全文):そうですか。安田さんなんか随分、共通点があるんじゃないの?
安田菜津紀氏(全文):いやあ、そうですね。やっぱりあの、私がこの世界に入ったきっかけの1つになった方でしたし、やはり紛争の現場なんかで取材しているとその、国境を越えて逃れてきた難民の方々ももちろん深刻なんですけれど、やはりその資金がなかったり身体が動かなかったり。そもそも国境を超えることさえできない方々が置き去りにされがちだということを痛感しますし、藪中さんがおっしゃったように、その支援に踏み切ったということでどれだけの方々がこれまで救われてきたかっていうのは計り知れないと思うんですよね。一方でその、今おっしゃったように、日本の中の難民認定についても、やはり「日本の難民受け入れは積極的平和の一部である」というふうに、非常に大きな投げかけをされていたんですね。昨年の日本国内の難民認定率って0.25%なんですよね。この非常に低い数字に対してじゃあ私たちがどう向き合うのかということが、おそらく残された宿題ではないかなというふうには思います。
浜田敬子氏(要約):私は大学時代、緒方さんの授業をずっと授業を取っていた。記者になってからアメリカの同時多発テロについてインタビューしたとき、「日本は本当に人道大国になってほしい」と改めておっしゃっていた。そして日本に帰国するたびに、「日本の議論は抽象的で現場感がない」とおっしゃっていた。
竹下降一郎氏(要約):たくさんのクルド人を救うために緒方さんは既存のルールを変えた。真のリーダーは既存のルールを飛び越える存在だと思う。そのためには「この人なら新しいルールを作る資格がある」と皆に思わせるほどの理念が必要だと思う。今の日本のリーダーを見ていると、そういう信念をもっているリーダーが少ないなということを改めて突き付けられたと感じた。
松原耕二氏(要約):私もインタビューしたことがあるが、とてもチャーミングな方。緒方さんは抽象的な議論を許さなくて、できない理由と“ Let’s do it. “、「やりましょう」と言う人。国内難民を救うためのルールを変えることが如何に大変か。加盟国は自分の国に内政干渉されることを嫌がるが、それでもLet’s do itと言ってやった。国際人っていうのは、結局最後は人間力なんだということを教えてくれているように思う。
以上が放送内容となります。
では、今回の報道にどのような問題があるのかを整理してみます。
今回の報道で、我々が問題だと考えたのは、以下の3点です。
1、関口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
2、安田氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
それぞれ順を追って解説します。
1、関口氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
関口氏は今回の報道で、以下のように述べています。
関口氏(抜粋):おっしゃってることはずっと、「当然だよな」って思うけど、それができない世界だよね。僕、ある方にね、緒方さんに会ったって人に聞いたんだけど、「アメリカについてどう言ってんですか?」って言ったら、「戦争ばっかりしてて」って。こう言ったっていうのを聞いてね、うわあ素晴らしい人だなと思いましたが。さあ皆さんに聞きましょう。
要旨をまとめると、
・緒方氏はアメリカについて「戦争ばかりしてダメだ」という趣旨の発言をしていたので、緒方氏は素晴らしい人だ。
というものです。
しかしながら、
・「アメリカが戦争してばかりでダメだ」という趣旨の発言を以て「素晴らしい」と評価するのは政治的に公平とは言えない。こうした発言は視聴者に「アメリカは考えなしにとにかく戦争をしている」などという誤った認識を与える可能性がある。
など、発言内容とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での関口氏の発言は政治的に公平でなく、また事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
2、安田氏の発言に事実と異なる恐れのある内容が含まれている
安田氏は今回の報道で、以下のように述べています。
安田氏(抜粋):一方でその、今おっしゃったように、日本の中の難民認定についても、やはり「日本の難民受け入れは積極的平和の一部である」というふうに、非常に大きな投げかけをされていたんですね。昨年の日本国内の難民認定率って0.25%なんですよね。この非常に低い数字に対してじゃあ私たちがどう向き合うのかということが、おそらく残された宿題ではないかなというふうには思います。
要旨をまとめると、
・日本の難民認定について、緒方氏は「日本の難民受け入れは積極的平和の一部だ」と主張していた。
・昨年の日本の難民認定率は0.25%で非常に低い。この数字を上げることが我々に残された課題だ。
というものです。
しかしながら、
・難民受け入れ以外にも海外救援活動や経済支援など積極的平和主義を達成する手段が存在し、安倍政権も積極的平和主義の実現に向けて動いている。日本が難民を受け入れないから積極的平和に貢献していないとする主張は事実に即していない。
・難民認定申請で不認定となった者の主張のうち6割が「財産上のトラブル」や「地域住民とのトラブル」などを理由に申し立てており、不認定者がすべて難民だとする主張は事実に反している。
など、発言内容とは異なる事実が存在します。
以上のことから、今回の報道での安田氏の発言は政治的に公平でなく、また事実に基づかないものである恐れがあり、したがって放送法第2章第4条第2号「政治的に公平であること」、同第3号「報道は事実を曲げないですること」に違反する恐れがあります。
3、この報道全体がひとつの立場・観点に偏っている
今回の放送では、この問題について全体を通して「これからの時代は軍事力の安全保障ではなく人間の安全保障をやっていくべきだ」「日本の難民受け入れの少なさは非人道的なので難民を受け入れるべきだ」という立場に立った意見のみが出てきました。
ですがこの問題に関しては「人道支援などの人間の安全保障は軍事力による安全保障がなければ成立しない」「日本は同質的な社会であり言語も文化も違う難民は日本で暮らしていけない」といった反対の意見があります。にもかかわらず、今回の報道ではそうした意見を全く取り上げず、あくまで片方の視点に立った論点のみが放送されていました。
以上のことから、この内容は放送法第2章第4条第3号「政治的に公平であること」、同第4号「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に違反する恐れがあります。
以上が報告の前編となります。前編では、事実と異なる内容を放送したり、一定の立場に偏った内容だけを放送した恐れがありました。こうした報道は、放送法に違反する恐れがあり、視聴者への印象を誘導する偏向報道の可能性が極めて高いといえます。
この続きの
② イスラム国指導者の死亡について報道された部分
については中編の報告をご覧ください。
③ 徴用工判決の影響について報道された部分
については後編の報告をご覧ください。
公平公正なテレビ放送を実現すべく、視聴者の会は今後も監視を続けて参ります。