2019年11月18日 報道ステーション

2019年11月18日 報道ステーション

11月18日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・武器輸出に関するコメンテーターによる解説

まずは放送内容から確認していきます。

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【スタジオ】
徳永有美アナウンサー(徳永アナ):こちらをご覧ください。戦車やミサイルなどが展示されているんですが今日から世界最大級の武器の見本市が始まりました。どこで始まったかというと実は、日本なんです。支援しているのはイギリス政府と日本政府です。

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【VTR】
西尾哲也レポーター:海外の軍服を着た方もいらっしゃいます。こちら、日本の企業が開発した水中探査機です。そして、あちらには自衛隊の10式戦車もありますよ。

ナレーション(以下ナレ):国内外のおよそ150社が参加し陸海空の装備からサイバー攻撃関連まで安全保障に関する全分野を扱っています。

佐藤浩孝氏(川崎重工市場調査部部長)『防衛部門における技術、これが防火・災害派遣・危機管理など、世界に対して役に立つのではないかと』

マーク・リットン氏(英・防衛大手BAEシステムズ)『アジア太平洋地域はもともと大きな市場です。技術力を顧客に紹介し、関係性を深めて次のステップにつなげられるのです』

ナレ:会場内には戦闘機やミサイルなどの展示も。2年に1回開催されるこの世界最大級の見本市。今回、防衛省に加え外務省や経産省も後援しています。初めての国内開催に力が入るのは政府の目指す国産防衛装備の輸出拡大の動きと関係しています。政府は2014年武器輸出を事実上制限してきた武器輸出三原則に代わる新たな方針として防衛装備移転三原則を閣議決定しました。

小野寺五典防衛大臣(当時)『防衛装備品を適切に海外移転することにより、より一層平和への貢献や国際協力をするための新たな展開が打ち出せたと考えております』

ナレ:以降、政府は潜水艦や救難飛行艇などの輸出を目指してきました。ただ値段の高さなどがネックとなり輸出の実績作りには至っていません。見本市の実行委員長を務める元防衛次官の西正典氏は…。

西正典実行委員長(元防衛次官)『我々が売っているものは必ずしもすぐ武器だということにはあたらない。むしろ産業のすそ野を広げていくために必要なものだと思っています』

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【コメンテーターによる解説】
徳永アナ:(VTRを受けて)なるほど。ただ、ついに日本も戦車やミサイルの売買のビジネスの場になっているのかというふうなことを感じていらっしゃる方ももしかしたら多いかもしれませんよね。

後藤謙次氏(後藤氏):VTRにあったように5年前に武器輸出三原則から防衛装備輸出三原則に変わったと。しかし、実際に自由に売れますよということになっても成果が上がってないのが事実だったわけです。その成果の場を広げるというのが今回の見本市の場だったと思いますね。とりわけ、日本には中小企業とりわけパーツ、部品の部分で例えばレーダーだとか双眼鏡だとか水中ロボットだとか非常に高度な技術があるんですが中小企業は世界で開かれる見本市になかなか資金力の問題もあって出せないと。そこで日本で開けばバイヤーが世界から集まってきてその出会いの場ができるんじゃないかというのが今回の1つの狙いだったんですね。ただ、日本はどんどん防衛産業自体が衰えてきているんですね。とりわけアメリカから「イージス・アショア」とか本来の経済原理とは関係のない装備品を買わされるということがあるんですが、これをなんとか変えたいというのが今回の背景にあるんだと思います。日本は専守防衛の観点から死の商人にはならないという基本原則がずっと貫かれたんですね。それを今回どこで線引きするのか。まだ議論がないまま一気に拡大という方向にいくのは早いんじゃないか。そこをきちっと議論したいと思います。

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【検証部分】

今回検証する発言は以下の部分です。

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後藤謙次氏(後藤氏):VTRにあったように5年前に武器輸出三原則から防衛装備輸出三原則に変わったと。しかし、実際に自由に売れますよということになっても成果が上がってないのが事実だったわけです。その成果の場を広げるというのが今回の見本市の場だったと思いますね。とりわけ、日本には中小企業とりわけパーツ、部品の部分で例えばレーダーだとか双眼鏡だとか水中ロボットだとか非常に高度な技術があるんですが中小企業は世界で開かれる見本市になかなか資金力の問題もあって出せないと。そこで日本で開けばバイヤーが世界から集まってきてその出会いの場ができるんじゃないかというのが今回の1つの狙いだったんですね。ただ、日本はどんどん防衛産業自体が衰えてきているんですね。とりわけアメリカから「イージス・アショア」とか本来の経済原理とは関係のない装備品を買わされるということがあるんですが、これをなんとか変えたいというのが今回の背景にあるんだと思います。日本は専守防衛の観点から死の商人にはならないという基本原則がずっと貫かれたんですね。それを今回どこで線引きするのか。まだ議論がないまま一気に拡大という方向にいくのは早いんじゃないか。そこをきちっと議論したいと思います。
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この発言の問題点は以下の点です。

・事実と異なる発言があった可能性がある

まずは後藤氏の発言を簡単にまとめてみます。
① 5年前に武器輸出三原則から防衛装備輸出三原則に変わったが成果はない
② 今回の武器見本市の狙いは、日本で開けばバイヤーが世界から集まってきてその出会いの場ができること
③ アメリカから「イージス・アショア」とか本来の経済原理とは関係のない装備品を買わされたことなどにより、日本の防衛産業が衰えてきている
④ 武器輸出をどこまで認めるか十分な議論がされていないため、線引きが必要だ

このような趣旨の解説がなされていました。

① 「イージス・アショア」はアメリカから買わされたものなのか
② 武器輸出に関する線引きはないのか

この2点について検証していきます。

まずは1点目の「イージス・アショア」について

イージス・アショアはアメリカから買わされたものであり、これが日本の防衛産業の衰退につながっている、と後藤氏は主張しています。
またイージス・アショアに関する報道では、その費用面への報道が多くなっており、アメリカから買わされたというものが多くなっています。
しかし、専守防衛を原則としている日本にとってイージス・アショアは必要である、という意見もあります。

軍事ライターの稲葉義泰氏によると、イージス・アショアには様々なメリットがあります。

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現在、日本の弾道ミサイル防衛体制は海上自衛隊のイージス艦4隻と、航空自衛隊の地対空ミサイルPAC-3によって構成されています。しかし、このうち海上自衛隊のイージス艦は、365日連続して海に浮かんでいられるわけではありません。たとえば、船体のメンテナンスのために定期的にドックに入る必要があったり、乗員の休養や物資補給のために港に停泊したりする必要もあります。その点、イージスアショアは地上に設置されているため定期的な修繕などを必要とするわけではありませんし、運用する人員を交代制にしてローテーションを組めば、24時間365日いつでも弾道ミサイル防衛に従事することができます。

さらに、イージスアショアの導入で得られる最も大きなメリットとして、「イージス艦の弾道ミサイル防衛からの解放」が挙げられます。

 そもそもイージス艦は、弾道ミサイル防衛のみを行うための存在ではありません。本来の任務は味方の艦隊を敵の航空攻撃から守る艦隊防空であって、弾道ミサイル防衛は後々付け加えられた任務です。

 しかし、昨今の北朝鮮情勢の影響で、海上自衛隊のイージス艦は日本海での長期間の弾道ミサイル警戒任務を強いられ続けてきました。これにより、本来イージス艦が行うべき艦隊防空に当のイージス艦が加わることができなかったり、あるいは日常のこまごまとした訓練を行ったりすることも難しくなってしまいました。これは、イージス艦の運用能力低下につながりかねない深刻な事態です。

≪引用:防空システム「イージスアショア」の特徴は? 導入で、日本が得られる大きなメリットとは https://trafficnews.jp/post/81113/3≫
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北朝鮮からのミサイル防衛が喫緊の課題である日本にとって、イージス・アショアの導入は大きなメリットをもたらします。
自衛隊の人手不足も加味すると、イージス艦を新規導入も難しいため、イージス・アショアのようなミサイル防衛装備が必要という見方です。

この点を無視し、「アメリカから買わされ、防衛産業の衰退に繋がった」という解説は事実と異なる可能性があります。

次に、防衛装備輸出三原則の線引きについてです。
後藤氏は十分な議論がなく、線引きもされていない、という趣旨の解説をしています。
しかし、防衛装備輸出三原則の線引きは存在します。

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政府が2014年4月に閣議決定した防衛装備品の輸出や国際共同開発に関する新原則。武器や関連技術の輸出を原則的に禁じていた従来の「武器輸出三原則」を改め、日本の安全保障に役立つなどの条件を満たせば輸出や共同開発を認めるようにした。紛争当事国への移転や国連安全保障理事会決議に違反する場合は認めない。

≪引用:防衛装備移転三原則とは 条件付きで輸出認める 2017/11/24日経新聞≫
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このように日本の安全保障に資する場合のみ輸出を認めるのであり、紛争当事国に防衛装備が輸出されることはありません。
またこの記事では防衛装備共同開発の背景にも触れています。

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装備品の分野で国際共同開発が主流になっていることが背景にある。技術が高度になることに伴って開発や生産にかかる費用が膨らんでおり、一国よりも複数国で負担した方が経費を抑えられるからだ。

≪引用:同上≫
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防衛費が抑えられている日本にとって、共同開発はコスト面でも日本の安全保障に資するのです。

以上見てきたように、後藤氏の解説は事実と異なる可能性があり、以下の放送法に抵触する恐れがあります。
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放送法4条
(3)報道は事実をまげないですること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して今後も監視を続けて参ります。

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