2019年11月22日 報道ステーション

2019年11月22日 報道ステーション

11月22日の報道ステーションのレポートです。
今回検証するのは以下の点です。

・日韓関係の悪化に関して様々な論点を提示した放送ではなかった可能性がある

まずは放送内容から確認していきます。
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【スタジオ】
小木逸平アナウンサー(以下小木アナ):こんばんは。「報道ステーション」です。韓国政府が破棄するとしていました日本との軍事情報包括保護協定・GSOMIAについて今日夕方、破棄を先送りすると発表しました。

森川夕貴アナウンサー(以下森川アナ):この発表は失効の6時間前というギリギリのタイミングでした。なぜ、このような判断に至ったのでしょうか。

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【VTR】
ナレーション(以下ナレ):すったもんだあったGSOMIA破棄を巡る問題。最悪の時代は回避されました。

康京和外相(韓国・以下康外相)『ひとまず若干の時間を稼いだと言えます』

ナレ:この間、いろいろありました。しかし、状況は少しだけ変わってきたようです。

金有根第一次長(韓国国家安保室・以下金次長)『日韓両国政府はこのほど両国間の懸案解決のためにそれぞれがとるべき措置について同時に発表することにしました』

安倍総理『北朝鮮への対応のために日韓・日米韓の連携・協力は極めて重要であります。今回韓国もそうした戦略的観点から判断したのだろうと、こう思います』

ナレ:23日の午前0時をもって失効が迫っていたGSOMIAですが懸案だった破棄はとりあえず先送りされることになりました。先送りされる期間を日本政府はとりあえず1年とみています。

金次長『韓国政府はいつでもGSOMIAの効力を終了させられる前提のもとに「2019年8月23日の終了通告」の効力を停止することとし、日本政府はこれについて理解を示しました』

ナレ:ともあれ最悪の事態は避けられました。

河野太郎防衛大臣『今回のは終了通告を停止するということでありましたので、しっかりと正常化に向けて判断を頂きたいと思っていますし、誤ったメッセージを発することなく、しっかりと東アジアにおいて日米韓3か国が連携をしてこの厳しい安全保障状況をわたっていきたいという風に思います』

茂木敏充外務大臣『日本として、今回の韓国側の判断でありますが北朝鮮問題等への対応のために安全保障上、日韓、そして日米韓の緊密な連携が重要であると考えておりまして、現下の地域の安全保障環境を踏まえて、韓国政府としてそのような戦略的な判断をしたと受け止めております』

ナレ:もともとGSOMIAの破棄は韓国から言い出した話です。しかし、その韓国側が今回譲歩したようにもとれます。明日、茂木外務大臣との会談が調整中のカン・ギョンファ外相はというと…。

康外相『この間外交当局間で集中的に協議しました。その協議内容、日本の態度、韓米関係、韓米の協調などを検討し真摯な政府内の議論がありました。その結果として下した決定であり、ひとまず若干の時間を稼いだといえます』

ナレ:GSOMIAは日本と韓国ひいては日米韓の協力関係の象徴です。韓国メディアによると破棄を決めた8月後半まで29回の情報交換が行われてきたとされています。

エスパー国防長官(アメリカ)『日米韓は価値観や利益を共有しており、防衛におけるパートナーシップは3国間の関係の基盤だ』

ナレ:それ故に、あの国々は問題の行く末に興味津々でした。

千々岩森生レポーター:今朝の中国共産党系の新聞です。裏面全体を使って日米韓3か国の軍事協力に亀裂が入っていることを伝えていましてその中で日韓GSOMIA明日終了かと書いています。

CCTV(中国メディア)『韓国でNSC国家安全保障会議が開かれました。GSOMIAについて引き続き密に協議することを決め、様々な状況への対策を話し合いました』

ナレ:韓国国内では、日本と軍事的な協力を進めることに根強い抵抗感があります。機密情報を交換・共有するGSOMIAは締結のときから、さまざまな反対運動が起きていました。今でも国論は分かれています。

(ソウル・22日午後7時半)
反対運動の演説者『GSOMIA破棄反対闘争が勝利しました』

破棄に反対する人『過去は過去として新たな未来のために日本と深い関係を維持するべき』

反対運動の演説者②『文政権あなたに期待したろうそく市民の心をこんなに痛めつけてよいのですか?』

破棄に賛成する人『GSOMIAを破棄して日本側も謝罪して友好国として未来をつくっていきたい』

ナレ:左派が支持基盤である文在寅大統領は日本に対して弱気なところは見せられません。

文在寅大統領(韓国)『「韓国は安全保障上信用できない」と言っておきながら「軍事情報は共有しましょう」というのは矛盾した態度ですよね?』

ナレ:徴用工問題に端を発し、ホワイト国除外、GSOMIAの破棄という安全保障に関わるところまでこじれていった日韓関係。日本と韓国は今後まずはテーブルに着くことで合意しました。GSOMIAと徴用工の問題は絡めずにまずは輸出管理の問題から協議しなおすとしています。

飯田陽一貿易管理部長(経済産業省)『今回の韓国からのWTOプロセスの中断の通報をふまえると、韓国側が輸出管理の現状の問題点について、改善に向けた意欲を示していると受け止めることができると。両国の輸出管理について相互に確認することとしたいという風に考えております』

康外相『輸出当局間の正常な協議が進む間はWTO提訴の手続きを停止する。私たちはこの協議が進むことで日本側が輸出規制措置を撤回するための土台ができたと評価し、その目標が達成できるよう輸出当局間の対話に臨みます』

ナレ:それにしてもなぜ、このような落としどころになったのでしょうか。

日本政府関係者『流れが変わったのは昨日の韓国側のNSC(国家安全保障会議)から』

ナレ:日本政府関係者は昨日の朝の段階まではこのまま破棄になるとみていました。しかし、韓国では本来午後に開催予定だったNSCが午前中に前倒しされます。政府関係者が流れの変化を感じたのは、このときからです。夜、カン・ギョンファ外相はアメリカのポンペオ国務長官と電話会談を行いました。そして、今日行われた文在寅大統領も出席したNSCで破棄の延期が決定されました。

韓国大統領政府関係者『2日続行けてNSCを行い1時間以上話し合った。文大統領が会議に出席するのは異例のことだ』

日本政府関係者『韓国側がいろいろ迷った末の結果だと思う。こちらは何も動いていない。譲歩も退歩もしていない』

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【パネル解説】(要約)
GSOMIA破棄は韓国から申し出たことだが、破棄を撤回する条件として日本に輸出管理強化の見直しを求め、日本側は、それは別次元の問題だと一貫して主張している。一方でWTOの提訴については日韓で正常な議論が交わされている間は、韓国側は手続きを停止するとして、日本も協議に応じる姿勢を見せた。

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【記者中継】(要約)
高橋政光支局長(韓国):今回の結果に対し、現地では賛成反対それぞれの意見がある一方で、GSOMIAをよく知らず関心がない人も多かった。文大統領は支持離れを防ぐために、国民に対しては日本から譲歩を引き出し、さらにアメリカまで動かしたぞということで外交戦略の成功だとアピールしていくものとみられる。

Q.韓国が日本の譲歩を引き出したというが、全体的には韓国が譲歩したとも見て取れるところもある。その辺りの内幕はどうなっているのか。

高橋支局長:韓国は、日本の輸出管理の強化措置による経済の悪化を非常に懸念している。その中で今回、対話で合意がなされたことには韓国側としても動く余地ができたといえる。また、北朝鮮との関係が立ち行かない中で、安全保障上の不安を考慮し、破棄に反対していたアメリカに配慮した結果だともいえるだろう。

吉野真太郎記者(日本):ある日本政府関係者は、日本側がGSOMIAの継続に固執しなかったことが今回の結果につながったと話した。また別の担当者は完璧な試合運びだったと振り返り、破棄は百害あって一利なしなのでそうならずよかったと受け止めていた。

Q.日本はGSOMIAの破棄と輸出管理強化の問題は別物だとしてきたが、取引材料としてセットになっている、ということは実際にあるのか。

吉野記者:韓国は条件付きだと主張しているが、今回、輸出管理の措置が変更されることはなく、韓国もWTOへの訴訟手続きを中断すると言って来たため、結局、セットにも取引にもなっていない。ある日本政府関係者高官は、韓国は日本が譲歩したと主張できるためよかったのではないかと話した。

Q.アメリカが今回の件で韓国に強い圧力をかけていたことは間違いないのか。

布施哲支局長(アメリカ):そういっていいと思う。アメリカは当初、日韓どちらにも肩入れはしたくないということだったが、この一か月、高官を送り韓国にプレッシャーをかける一方で、日韓両国の話し合いを強く望んでいた。

Q.アメリカは今回の日韓の決断に好感しているだろうが、今後についてはどうか?

布施支局長:アメリカとしてはそうは見ていないと思う。もともと韓国に対して冷淡であったトランプ大統領のみならず、国務省や国防総省の中にも、韓国に対する不信の声が上がっている。今回の問題日韓関係だけではなくて米韓、日米韓全ての関係に大きな傷跡を残したと言っていいと思う。

Q.韓国の今後について

高橋支局長:韓国は来年に総選挙を控え、歴史問題で日本側に一方的に譲歩するという対応は難しい。ただ、経済の悪化に対する不安は消えていないので、日本との関係改善を模索する中で、徴用工訴訟でも日本企業に実害が出ないような配慮をする、新しい提案を検討している動きが出ている。

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【コメンテーターによる解説】
小木アナ:(中継を受けて)その新しい動きはどうなるかというところで今後になりますが。

森川アナ:いったん、破棄を先送りということになりまして最悪の事態は回避できたのかなという感じもしますけれど。

野村修也氏(法学者):韓国はいろんなことを言っていますが結局、もとのさやに戻したということです。日本の立場はほとんど変わっていませんので韓国が上げた拳を下ろしたということになると思います。その背景にはアメリカの強い圧力があったといえると思うんですがアメリカはもともとなぜこのGSOMIAを維持するように強く要求しているかというと、実際のところ中国の問題があるんですよね。中国は海洋進出を進めていましてその結果、いろんな軍事拠点が広がっていく恐れがあるわけです。そのことに対して懸念を持っているのは日本だけではなくてインドとかオーストラリアも懸念を持っていましてそういう意味ではインド太平洋地域というものを自由な海域にしていくことを目指しているわけですね。そういった戦略から考えますと海に面している韓国がやはり、そこのグループにしっかりと入ってもらうことが大事だということが言えるわけです。韓国としても、そういう意味では日本との間の反日感情による短絡的な政策ではなくてそういったグローバルな視野に立ったしっかりとした外交・安全保障政策をとっていくということが必要なんじゃないかと思います。

森川アナ:明日、調整されています日韓の外相会談にも注目ですよね。
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【検証部分】

今回の放送では、GSOMIAの破棄を撤回した経緯に関する報道が主な論点として、放送されていました。

まずは簡単に放送内容をまとめます。
① GSOMIA破棄を見送った背景としては、アメリカからの圧力がある
② 日本は立場を変えていない
③ 韓国世論は二分しているが、選挙も近いため日本への妥協は難しい

今回の放送ではなぜ韓国がGSOMIA破棄を宣言するような事態になったのか、述べられていません。

その根本的な原因は、歴史認識問題に関係しているのですが、今回の放送でその部分に触れていたのは以下の部分だけでした。

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ナレ:徴用工問題に端を発し、ホワイト国除外、GSOMIAの破棄という安全保障に関わるところまでこじれていった日韓関係。日本と韓国は今後まずはテーブルに着くことで合意しました。GSOMIAと徴用工の問題は絡めずにまずは輸出管理の問題から協議しなおすとしています。
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これでは日韓関係がここまでこじれている要因が分かりません。

そこで、そもそも日韓関係悪化の論点はどこにあるのかを整理し、今回の放送を検証していきます。

日韓関係悪化の発端は韓国側が日韓請求権協定という国同士の約束事を守らずに、徴用工問題に関係して、日本企業に損害賠償の支払い命令を下したことにあります。
しかし、今回の放送では日韓請求権協定にも触れられていません。

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日韓請求権協定は,日本から韓国に対して,無償3億ドル,有償2億ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており,いかなる主張もすることはできない(第2条)ことを定めており,これまでの日韓関係の基礎となってきました。

韓国大法院判決が,日本企業に対し,損害賠償の支払等を命じる判決を確定させました。これらの判決は,日韓請求権協定第2条に明らかに反し,日本企業に対し一層不当な不利益を負わせるものであるばかりか,1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって,極めて遺憾であり,断じて受け入れることはできません。

《引用:大韓民国による日韓請求権協定に基づく仲裁に応じる義務の不履行について(外務大臣談話)》
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page4_005119.html

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この協定の解釈に違いがあって、日韓関係は悪化したのです。

同協定では解釈の違いがあったときは、仲裁委員を指名する義務がある、と定められています。
韓国側はこれにも応じないため、日韓関係は悪化したのです。

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韓国大法院判決の執行のための原告による日本企業の財産差押手続が進む中,何らの行動もとらなかったことから,5月20日に韓国政府に対し,日韓請求権協定第3条2に基づく仲裁付託を通告し,仲裁の手続を進めてきました。しかしながら,韓国政府が仲裁委員を任命する義務に加えて,締約国に代わって仲裁委員を指名する第三国を選定する義務についても,同協定に規定された期間内に履行せず,日韓請求権協定第3条の手続に従いませんでした。

《引用:大韓民国による日韓請求権協定に基づく仲裁に応じる義務の不履行について(外務大臣談話)》
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page4_005119.html
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このような日韓関係悪化の論点を明かさずに放送を行うことは以下の放送法に抵触する恐れがあります。

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放送法4条
(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
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視聴者の会は公正なテレビ放送を目指して今後も監視を続けて参ります。

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